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概要:組織のミッション・ビジョンの構築
期間:4ヶ月
「Origin(起源)」を言語化し、組織のアイデンティティを取り戻す
ーどのようなお客様だったのでしょうか?
エネルギー系の事業を推進する企業様で、ご依頼いただいたのは新規事業を支援し、促進する部署です。もともと4年ほど前に、どの部署に所属していても規定の枠組みに当てはまらない新しいこと好きのメンバーが一箇所に集められて新設されたのがこの組織でした。
ーこの組織はどのような課題をお持ちだったのでしょうか?
新設当初はイノベーター気質のメンバーが多かったのですが、そういった人たちは基本的に新しい環境を求めどんどん自ら出ていってしまいます。そのため、4年経つ頃には20人ほどいた初期メンバーは数人になっていたんです。
しかし、逆に新しいメンバーは増え、50人ほどの規模の組織になっていました。当初のようなチャレンジングな組織風土はほとんど無くなっていました。さらには指示待ち状態のメンバーも増え、初めの組織の形とはかけ離れたものになっていました。
当時のようなチャンレンジ精神のあるメンバーのエネルギーや化学反応は会社にとっても良い影響を与えていることを認識していたため、初期メンバーの幹部たちは当時と現状とのギャップに悩んでいたんです。このギャップをどうにかして埋めたいというのがご依頼され向き合った課題です。
ーその課題に対してマホラ・クリエイティブはどのような形で介入したのでしょうか?
発足当時のような部署の風土やカルチャーに戻したいというのが幹部数名の想いでした。その想いを理解した上で、単なる原点回帰ではなく、今、そして未来を見据えた組織集団にしたいという意志を感じました。
そのため、この組織が存在する意義、そして目指す方向性を本当の意味でメンバーに理解してもらう必要があると思ったんです。そこで、組織のミッション・ビジョンを今一度、再考し、立て直しをすることにしました。
ー部署単位でもミッション・ビジョンは存在するのですね。
意外と大きな会社の盲点なのですが、ミッションやビジョンは会社で一つだと思われがちです。しかし、その中の部署やチームなど、人が集団で何かを行う以上、どの単位でもミッションとビジョンがあって良いと思いますし、それが理想です。
同じバスに乗る、同じ釜の飯を食べる単位で、ミッションやビジョンを考えることはとても重要です。部署のミッション・ビジョンは必然的に企業のミッション・ビジョンにも紐づきますので、常に仕事の意味を自分たちの目線で解釈し、認識することができるんです。
ーミッション・ビジョン策定はどのように進めたのでしょうか?
まずは初期メンバーの幹部陣数名に組織が作られた当時の状況についてヒアリングを行いました。ヒアリングをして分かったのですが、立ち上げ当時のことをあまり他のメンバーに対して語ってこなかったそうで、そのこと自体も組織にあるはずの雰囲気が受け継がれていない原因の一つでした。これは組織のDNAといっても良い部分です。それらが見えない、機能していない状態でした。
マホラ・クリエイティブがミッション・ビジョン策定に関わる際には、まず、その組織が何のために存在しているのかという「Origin(起源)」を明確に言語化していきます。部署のOriginを組織発足当時の4年前を振り返りながらまずは思い返していただきました。4年も前のことなので忘れてしまっている部分に関しては、私が第三者の立場から様々な角度で掘り下げていきました。
実は、ご自身たちも思い出しながら他者に確認してもらうことで、この組織の成り立ちやそもそものはじまりを自分の無意識状態から顕在的なものとして意識してもらうことにもなります。やらなければならないタスクや決められたゴールを達成することがあまりに大きく、過酷な状況ですとそれに集中しなければならないため、つい優先順位を落としがちなこのOriginの確認は、組織をリードしていく立場の人たちこそ最も丁寧に時間をかけて行ってもらいたいものの一つです。
そして、Originが少しずつ明確になってきたら、次に自分たちが大切にしていること、大切にしていきたいことを様々なワードで発散してもらいます。そして充分に発散しきったら、今度は議論の中でファシリテーターとしてマホラ・クリエイティブがいくつか指針の肝となるような「問い」を提供しながら、それをもとに対話をしていきます。
その対話の中から自分たちにしかないと思う価値だけを残していく収束の作業に入ります。これらを初期メンバーの幹部陣と新しく参画したリーダー陣の混合チームにて全10時間ほどくらいかけてじっくり行いました。幹部陣で語ってもらった内容は絵を描けるメンバーがグラフィックレコーディングにしてまとめ、視覚的にも分かりやすく情報を整理していきました。
ー発散と収束のプロセスにおいて櫻井さんが大事にされていたことはありますか?
組織における発散とはパンを焼く工程でのイースト菌による発酵に近いものです。短期間で膨らませられるだけ膨らませる。今回の例で行けば、このプロセスを通して、幹部陣の現在の本音や愚痴も、過去からの反省や教訓も、未来に対する希望も不安も、出来るだけ吐き出してもらって発散させることです。
発散をしながら現状を整理していくと、多くの場合「組織は全力で取り組まなければ、本質を変えることができないかもしれない」という現状とのギャップを認識し、全体の議論が頭打ちになる瞬間が出てきます。この「認識」こそが重要なのです。
そのような不安に対してこのプロセスの中で素直に、真正面からぶつかり、それを乗り越えらえるかもしれないという状況までもっていくことでリーダーの今後の組織に対する向き合い方が大きく変わります。この過程をちゃんと踏まないと、自分の不安を隠すためにメンバーに嘘をつく瞬間がいつか出てくる、本音と建前のギャップが大きくなる、ということになってしまいます。
幹部陣はなかなか不安を表には出せない立場にあります。特に組織の核となるミッション・ビジョンのプロセスにおいて、個々が感じている違和感を見ないふりしてしまっていては、いつかその違和感がメンバーにも伝染してしまいます。
ー確かに、リーダーが一番想いを持っていないとまたビジョンと組織とのギャップが生まれてしまいそうですよね。幹部陣の中で形になったものはどのようにメンバーに展開されたのでしょうか?
ちょうどコロナ禍ということもあり、メンバーの中にはやりたいことがあってもどうせこの組織では実践することができないという不満を潜在的に持っている人も多くいました。だからこそ、この組織の立ち位置、在り方を今一度見直し、未来に向けて検討した内容については幹部陣が自らの口で直接組織の存在意義として語ることに意味があると感じました。
そのため、新型コロナウイルスがまだ猛威をふるっておりいつ収束するのかはわからない状況で依然顔を合わせて議論するには微妙な時期だったのですが、万全の感染症対策をして複数回に分け、リアルで全員を集めてワークショップを行うことにしたんです。
ワークショップ当日、まずは幹部陣からこれからの組織のあるべき姿について直接語ってもらい、そもそも組織はどのようにしてできたのか、我々の存在意義はどんなところにあり、何が価値で、この会社でどんな役割をになっているのか、リーダーよりメンバーへ想いを伝えました。その上で、グループワークとして感じたことや自分のやりたいことについて内省してもらいました。
ーメンバーの皆さんに幹部陣の想いは届いたのでしょうか?
組織における在り方をリーダーがメンバーに伝える行為は、もはやラブレターです。スライドを使い、絵を使い、環境は整えるのですが、結局のところ最後はメンバーにどれだけ熱意や想いを届けられるのかが問われます。やはり直接語りかける言葉の熱量はオンラインには出せないもので、この対話を通して幹部陣が組織のこと、メンバーのことを深く考えているという想いがしっかりと伝わったようでした。
そして、グループワークを通してメンバーそれぞれがやりたいことも明確になった雰囲気がありました。その結果として、組織の輪郭がとてもシャープになったんです。
何となく組織に所属していたメンバーの中には、自分の想いと組織の想いにギャップを感じて自ら組織を離れていったものもいます。残ったメンバーは組織の中で自分がやりたかったことを再認識する機会となりました。
ビジョンと自らの想いの交点を認識するアプローチを行い定着を促す
ーミッション・ビジョン策定後、今度はそれらを浸透させるために行ったことはありますか?
ワークショップを行った1ヶ月半後に少し時間を置いてメンバーに「この先3ヶ月、何をやりたいか」というをヒアリングを行いました。
この問いを時間を空けて定期的に行うことで、メンバー自身が組織のミッション・ビジョンと自分の想いがずれていないかを確認し、自分が組織にいる意味を都度再認識していくことが出来ます。
もし、そこで組織の方向性と自分の想いのギャップに気づけば、自ら組織を抜ける選択を取るメンバーもいるでしょう。しかし、多くの人たちは自分がこの組織にいる意味と意義を感じてより安心して自分がやるべきことに集中できます。この確認する間隔を少しずつ空けていき、ヒアリングを行わなくともメンバーの中にミッション・ビジョンが深く落とし込まれているという状態を目指しました。
ーマホラ・クリエイティブのミッション・ビジョン策定において、他社とは違う特徴について教えてください。
ミッション・ビジョンの策定を形骸化させることなく、組織における価値観や個々のマインドセットの醸成、意識の変容も併せて行うということでしょうか。ミッション・ビジョンがワークシートを埋めるようなプロセスで、「はい、埋めて終わり」ということではなく、そのプロセスの中で「なぜ、この組織なのか?」「なぜ、ここで仕事をするのか?」というワークに対するモチベーションを上げるところまでを目指して活動を推進していきます。
先程お話ししたような、幹部陣の不安の解消や定着までのプロセスもそういった部分を意識して実施しているアプローチと言えます。
あとは再帰的な学習を取り入れているということも特徴です。例えば、幹部陣の発表に対してメンバーに「自分が共感した部分」と「理解できなかった部分」について書いてもらいます。そして、その意見を参考にミッション・ビジョンに足りていなかった要素を新たに取り入れるという作業を行いました。また、これらの声をただ収集するだけではなく、あるタイミングでリーダーがそれらの声についてどう考えているのか、どう思うのか、などを返答する機会を儲けて再び対話をする機会を作りました。
ただ一方的にできたものを発信するのではなく、作成した幹部陣たちもメンバーの想いを知り、組織の中に活かしていく、つまり再帰していくことで組織として成長するための学習が生まれていくのです。
ーミッション・ビジョン策定後、この組織ではどのような効果が生まれているのでしょうか?
ミッション・ビジョンが明確になり組織の進むべき道が見えたことで、この組織は再び活性化を始めました。
また、会社の中でも評価され、より重要な役割を与えられる形となりました。部署としても大きくなり、他部署との連携を含めて果たすべき機能の拡大と拡張をする結果にも繋がりました。ミッション・ビジョンの策定が組織の可能性を大きく広げる結果となった事例でした。
今回ご紹介した事例は「Maho-laメニュー構造」の【4】組織変革のためのラーニング・コンサルティングです。