世界行脚で感じた世界と日本の大きなギャップ。
日本人の意識変容の必要性を説くマホラ・クリエイティブの原点とは

イノベーション庁の担当は、イノベーションの鍵は「ユーザー」だと目を光らせた

そもそも、どのような理由で世界を行脚することになったのでしょうか?

2010年当時NTTデータという会社に勤めていた時に、世界のイノベーションを牽引する先進企業の動向調査を行ったのが最初のきっかけです。

NTTデータはITシステム等、ITのものづくりを行い、それを価値として世の中に提供してきました。高度経済成長とともにITシステムの導入は企業の必須条件となり、それを扱える人材は社会でも花形で、しばらくは大変人気な職種でした。寝ないで働くような激しさがある一方、未来への希望とワクワクがたくさん詰まった業界だったんです。

しかし、2000年以降、インターネットが発達してからは、GoogleやFacebook、昨今ではNetflixやCyberAgentなどユーザーに直接データとその価値を届けるデータ活用企業やコンテンツ提供企業が力を持ち始めるようになってきました。

それによって人材のシフトが起き、ものづくりでシステムとしてITを提供してきた企業の価値が以前ほど希少でなくなってしまっていました。いわゆるコモディティ化が起きていたのです。さらにはシステム・エンジニア職自体の人気も下落していたため、当時の社長はこの業界の未来にとても危機感を感じていました。どのような人材がいれば、そして、どのような要素があればITのものづくり(システム・インテグレーション)業界でイノベーションが起きるのか。そのこと探るため、海外の動向を探り、取り入れらるヒントはないかということで先進企業の調査をしにいくことになったんです。私はそのプロジェクトのメンバーとしてアサインされ、社長と共に世界行脚に同行することになりました。

では、IT業界が発展している国を周られたのですか?

ITももちろんポイントだったのですが、世界全体を見て社会で一体何が起きているのかということを探索するのが目的でした。NTTデータはITを活用してインテグレーションビジネスを行っているので、国や自治体などを含め社会全体と密接に関わっています。そのため、IT業界のみならず、社会全体をより発展させていくためには、広い意味で社会価値の高いイノベーションを起こしていく必要があります。「そこにはどういう要素が必要なのか?」という視点が重要だったんです。

そして、事前に様々な国を調べた中で、最初に北欧の国々に足を運ぶことになりました。

北欧の視察ではどのような気づきがあったのでしょうか?

スウェーデンのイノベーション庁に訪問したときのことです。「イノベーション」を含む、新たな価値を生むためのいくつかの重要な考え方に対する捉え方が日本とまったく異なっていたことに本当に大きな衝撃を受けましたね。

日本では、コンサルタントという職業は、その人の過去の経験や知見が価値や信頼に直結します。しかし、彼らは過去の経験や知見が現在や未来の課題解決の阻害要因になっている可能性があるという考えを持っていました。

また、ITシステムを提供する企業としてとても考えさせられたのは、「ITだけではイノベーションは起きない」ということを端的に力強く言われたことです。当時、ITコンサルタントの立場である私たちとしてはとても衝撃ですよね(笑)。過去の経験も、そして効率性をもたらすITシステムも使えなくて、一体どう戦えばいいのかと問いました。すると彼らは「人を見なさい」と言ったんです。「ユーザーを巻き込みなさい。人の行動に基づいてイノベーションを起こしなさい」と。彼らが言うように、人という要素を起点にして考えてみると、実はテクノロジーも過去の経験も全く使い方が変わることに気づきました。そして、我々は驚くほど、このユーザー、ひいては社会を起点に物事を考えることをしてこなかったんだと言うことに思い至ったのです。

そこでの議論は我々視察チームのちょっとした価値観の変容をもたらしました。その後も学びをさらに深めるため、はじめの北欧視察を起点に、シリコンバレーやイギリス・ドイツ・ポルトガルを含むヨーロッパの国を視察しました。やがて、初期の価値観変容は大きな視点の転換を生み、結果的にイノベーションに対する考え方の衝撃的な転換として視察メンバーに刻み込まれることになります。

NTTデータとしての視察は、3年間で気付けば、13ヶ国21都市62企業の訪問をしていました。これらの知見をさらに確実なものにし、価値を生み出す型にしたいと思ったため、マホラ・クリエイティブとしてはその後も視察を続け、最終的には、計6年で20ヶ国39都市116社もの国と企業を周りました。

世界の国々を周りどのような学びが得られたのでしょうか?

「人」つまりユーザーがイノベーションのファクターである時、ユーザーのニーズをキャッチするために彼らはデザイン戦略を大切にしていたんです。これはこのあと10年ほど世界で浸透し、イノベーションを牽引する鍵となるデザイン経営、デザイン思考、という言葉を生み出すきっかけとなる動きでした。当時の世界の最先端企業は、このデザイン思考の考え方を当たり前のように取り入れていました。

日本でもデザイン思考という言葉自体を知っている人は多いのですが、一時的なブームとして終わってしまっています。この世界行脚を通して、日本がイノベーションを生み出すのに足りない部分を補い成長していくためには、このデザイン思考という考え方やその根本にある価値が欠かせないものだと感じました。私自身、元々日本HPに勤めていた頃、7年間ほど新人への研修を設計していたのですが、その時に大切にしていた考え方が今で言うUX(ユーザー・エクスペリエンス)つまり、デザイン思考に近いものでした。そのため、デザイン思考の重要性に深く共感し、改めてこの必要性を感じる機会となりました。

「デザイン思考」という言葉が大事なのではありません。その言葉の裏にある意義、考え方の本質、なにより自己変容に対する考え方が重要なのです。

現在、マホラ・クリエイティブでは、ブームとなるような流行りの言葉にとらわれることなく、価値観の変容と成長のためのインプットを合わせて学びを提供する「変革の方程式」を企業様に提供し好評いただいておりますが、その原点となっているのがこれらの海外行脚です。

「適応」から「真の変化」へと日本人の意識を変容する

ずばり、世界に比べて日本に足りない部分とはなんでしょうか?

日本人は真面目で細やかで責任感があって、忍耐強い人種です。これは日本の強みでもあるのですが、一方で、そういった性質を持っているために、変わるべき時に変わらなくても危機を乗り越え、耐えられてしまうんです。

世界では貧富の差が日本よりも顕著にあるため絶対的なリーダーが組織全体、会社全体、国全体を動かしたい時には強制力を働かせればトップダウンで無理矢理でも変化を起こすことができる風土と土壌があります。そうやって物事を動かしてきた長い歴史と知見があり、型があります。

一方で日本は経済的中間層が多いこともあり、権限が曖昧で職掌が広いことも相まって、強制力を行使しても人は思うように動きません。そのため、結果的に強制力ではなく、「依頼」や「声かけ」程度の柔らかいリーダーシップになってしまうんです。そのため、全体を大きく動かさなければいけない時でも、日本の場合は体一つ分くらい何となく横にずれたかな、くらいで終わってしまいます。強い意志を衝撃として末端まで伝えられず、緩衝材がその衝撃をことごとく吸収して現場が変わらないことがほとんどです。

つまり、それは「変革」ではなく「適応」なんです。これまでも大きな時代の変化を良くも悪くも日本は「適応」で乗り越えてきてしまったし、乗り越えられてしまった。それは、不幸な人たちを生む、ということを避けてきた素晴らしい成果であると同時に、全体が停滞し、とてつもない活性と成長ができない、という結果でもあると思っています。様々な意見があると思いますが、選択し、好んで成長しなかったのではなく、適応しか型を持っていなかった。あくまで私個人の見解ですが、日本がこの数十年間成長できなかった理由はここにあると思っています。

日本は「本質的に変化する」つまり、トランスフォームすることの耐性が弱いということですね。

日本が変化の意識を取り戻すためには何が必要なのでしょうか?

日本人の根っこの本当に深い部分にある「変化に対する意識」、その無意識の自覚のようなもの自体を抜本的に変えないといけないと思っています。この根底にある意識をマホラ・クリエイティブでは「Style」と呼んでおり、新しいものを取り入れるためには、根本的にこの「Style」を変化させなければ本当の意味での「トランスフォーム」は起きません。生物でいえば、態を変えるというのは一部、命をかけて行われます。生物学的には、DNAを一部書き換えてでも変革を起こすことをトランスフォームと言います。企業や社会においても、本質的には命懸けで行うものなのです。

世界中の成長企業は、変化し続けるために、デジタルによるトランスフォーム、つまりDXを含めて、成長のためにありとあらゆる変革を行います。ただ、何でもかんでも壊せば良いということではありません。命をかけていますから重要なDNAが欠損すれば生命の危機、企業や社会でも崩壊を招きかねません。しかし、そのリスクをとってでも、自分たちで見極めて一部の不必要だと思う部分を変えていく。

会社の一部を手放したり、あえて壊したり、仲間を入れ替えたり、トップを変えたり、というチャレンジを積極的に繰り返しています。それは、「Style」を変えなければ新しいものを吸収できないと彼らは理解しているからです。私はこの意識の変革を日本でも根付かせたいと思っています。この10年の視察から得た驚くほど多くの知見は、今困っているたくさんの企業に活きると信じています。自分では、デジタル時代の遣隋使になった気分です。日本中を巡りながらその意義や必要性を謳っていきたいと考えています。

日本ならではの価値は長所でもあり、短所でもあるのですね。

まさに、世界で得てきた成長に資する要素、変革に必要な要素を、私が日本に持ち込みたいとこだわっている理由もそこにあります。世界の素晴らしい企業をたくさん見て、その優秀さに衝撃を受けましたが、同時に日本企業も世界の著しく成長している企業に決して負けないポテンシャルを持っていると感じたんです。日本人は世界トップクラスの勤勉さや真面目さを持っている。そこに正しい意識変容が起きれば、世界で貢献できる企業になる可能性を十分に持っていると思うんです。

日本人や日本の企業の意識を変えるため、マホラクリエイティブではどのようなアプローチを試行しているのでしょうか?

日本企業ははじめに論理を集めて準備をし、正解を探し、その間にチャレンジの意欲がなくなっていくということが多発しています。そのため、世界の企業のように、組織や人の意識変容に向けて、変化するためのチャレンジを「まずはやってみる」というところから実践していただき、試行錯誤の中で学習していただくためのコンテンツを提供しています。

実は日本企業の中でも「質的に変化する」ことの重要性、つまりトランスフォームの大切さに気づいて変化しようと努力している人はたくさんいます。しかし、どのように努力をすればいいのかわからないという企業や人がまだまだ多いんです。そのような方達の正しい努力の仕方のサポートをしていきたいです。

さらに、そもそも「自分たちが変わる」ということの重要性に気づいていない方たちもたくさんいます。その必要性を気づいていただくためのアプローチをしていきたいと思っています。